飛行機の中では、ベル・アンド・セバスチャンを聞くことにしている。
なぜか旅のお供にしてしまう、何故だろうか。
台湾から東京へと向かう早朝便の中でも聞いていた。
早朝便の暗い機内で、飛行機の揺れと、心地よい音楽に何度も薄目を開けてしまう、朦朧とした感覚。
それはまさに夢心地だった。
彼らの音楽はいつも臆病者の味方だ。
初めて知ったのは高校二年生の頃だったかなと思う。
「一番好きな映画はなんですか」と聞かれて答える、映画*1を監修していたのが、バンドのフロントマンであるスチュアート・マードック。
彼の映画を、一人で新宿のミニシアターで観た。
膝を折ってリアルに泣いたのは、初めてだった。
あまりにも抑圧された高校時代、不眠症と薬物依存で溺れそうな私を、私のことをわかってくれた気がして、胸が張り裂けそうなくらい泣いた。
所謂この映画も、音楽も私の青春の象徴だ。
遠いスコットランド、グラスゴーに思いを馳せては、どうでもいいけどどうでも良くないことをブラブラと歌に乗せる、軽快なリズムに揺れていた。
だから、今回も三泊四日の旅行の帰りに聞いていた。
思い返せば今回の旅は、一度もつまらないとか帰りたいとかだるいとかイライラするだとかそんなマイナス感情とか、
都会のことを思い出したりだとか、バイト先の人間関係を思い出したりだとか、そう言う事が一切なかった気がする。
旅先案内人が親しい友達だったし、みんな大人だから率先して家事や運転を分担できたからだと思う。
本当に大人になったな。
そうすると、私が深くて暗い自己の世界に没入していくことはない。
ベル・アンド・セバスチャンは、私の中では春先の庭で鳥の死骸を見つけるような感覚で
他者との人間関係の中で自分を見つめ直すようなある種の闇を含んでいるんだけど
それらを全く、する事がない数日を過ごした。
それはとても、快適で、健やかで病める事がない。
理想の世界。
心を溺れる事がない大海原に解き放つ感覚なのだ。
しかし、ユートピアであって、旅は旅。
いつかは現実に戻らなきゃいけないから。
それをほぐすため、現実との解離を防ぐため
お風呂上がりのマッサージのように、私はベルセバを、飛行機で微睡ながら聞くのだと思う。
着陸したら、そこにはまた私が立って待っている。
'The lovin is a mess what happened to all of the feeling'
I thought it was for real; babies, rings and fools kneeling
And words of pledging trust and lifetimes stretching forever
So what went wrong? It was a lie, it crumbled apart
Ghost figures of past, present, future haunting the heart