空の卵が割れた。
空から落ちてきた。
つやつやとして、丸くて、綺麗な卵。
なにか大切なものが入っていると思っていたのに、中身なんかなかった。
なにか高級で大層で、特別な何かが入っていると思ったのに。
気がつけば毎日、やり切れない空虚感とアンビバレンスな価値観と、洞窟のように長い自己同一性の旅に出ている。
夜になると怖い。
あの時の記憶はどこへ行ってしまったの?
あの時私に語りかけてきた私は誰なの?
卵は空っぽだから、そんなひどい言葉を浴びせたら通り抜けるとでも思ったの?
ひどい言葉は放射能だ。通り抜けたとしても、通り抜けた瞬間、私の体はバラバラに分解され、再構築される。
そうして、それを繰り返すうちにいつか壊れてしまうって、私は知らないんでしょう。あなたも知らないんでしょう。
最初から中身がなかったのかな、中身が分解されてしまったのかな。
割れてしまった、今となってはわからないのだけれど。